藤 姉さん、事件です

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メモ

『姉さん、事件です。』
ベランダのコンクリートを叩(たた)く、あまりに無機質(むきしつ)で、あまりに不吉(ふきつ)な、あの硬質(こうしつ)な破砕音(はさいおん)を私は一生忘れないだろう。

「あ……」

乾いた声が、生温い風に掻(か)き消される。
そこに佇(たたず)んでいたのは、初夏の陽光(ようこう)を浴びて誇(ほこ)らしげに青葉を茂(しげ)らせていた、我が家の藤の木だった。いや、「だった」と過去形で呼ぶべき無残(むざん)な姿が、そこには広がっていた。

ほんの一瞬の、悪戯(いたずら)な突風(とっぷう)だった。
いつもなら、その重みでどっしりと構えているはずの素焼きの鉢が、重力に逆(さか)らうように傾(かたむ)き、そして——放物線を描(えが)いて床へと崩落(ほうらく)したのだ。

ガシャアン、と激しい音を立てて身を砕いた素焼き鉢は、かつてまとっていた端正(たんせい)な円筒(えんとう)の面影を失い、無残な破片(はへん)となって飛び散っている。守るべき主(あるじ)を失った土壌(どじょう)が、まるで流血(りゅうけつ)のように黒々と床に広がり、露(あら)わになった藤の根が、行き場をなくして空気に触(ふ)れ、心なしか震(ふる)えているように見えた。

「嘘でしょう……」

私はその場に崩(くず)れ落ちそうになるのを堪(こた)え、ただ呆然(ぼうぜん)と、割れた鉢の破片と、晒(さら)された根を見つめることしかできなかった。丹精込めて育ててきた藤の、これが突然の、そしてあまりに理不尽(りふじん)な受難(じゅなん)の幕開(まくあ)けであった。

2026.07.02 原案:yoneko0417 作:Gemini